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不当判決

227億円の証券会社の詐欺と役割を拒絶する投資者保護基金とズサンな裁判
目次

分別管理とは

「分別管理」は本裁判における主要な議論の1つである。当サイトでは、そもそも投資者保護基金が補償するかしないかの判断にあたって、「分別管理」自体を問題にする必要はないと考えており、基金が保証しない理由とする法的裏付けとして「分別管理」を持ち出すことは意味が無い、と考えている。しかし、現実的に裁判にて議論が展開されているため、説明はする。

地裁の判決の中のP.26の(被告の主張)にて投資者保護基金制度の趣旨が書かれていて、この通りである。

分別管理制度とは、顧客から預託を受けた有価証券や金銭などの顧客資産の確実な返還を確保するため、金融取引業者に対し、顧客資産を金融商品取引業者の一般資産と区別して保管する事を義務付けることで、金融商品取引業者が登録取消処分、破産、解散等により金融商品取引業を行わなくなった場合に、顧客資産の確実な返還を実現するために設けられたものである。

平たく言うと、分別管理とは「金融業者が仕事をする上でのお金やオフィスや車と言った資産は、顧客の資産である株等の証券と一緒にしてはいけません、分けて管理しなさい。」と言う事である。要は、「お客の金を勝手に使わないように分けろ」と言う極めて当たり前の事を金商法で義務付けているに過ぎない。

ここで、投資者保護基金が意図してかどうか分からないが、「金融商品取引業者」と書くことでいかにも証券会社のみに絞ったような書き方をしている。実際に、金商法第42条の4を見ると下記のように「金融商品取引業者」と書かれており、証券会社のみに対象を絞っていない。

(分別管理)

第四十二条の四 金融商品取引業者等は、その行う投資運用業(第二条第八項第十五号に掲げる行為を行う業務に限る。)に関して、内閣府令で定めるところにより、運用財産と自己の固有財産及び他の運用財産とを分別して管理しなければならない。

金商法 第42条の4

分別管理を義務付けている法律上の対象は証券会社に過ぎず、投資者保護基金の補償対象を制約する」とは金商法上まったく書かれていない。
一方で、金商法施行令の第18条の10には下記の旨、書かれている。

第四十三条の二の二の規定による管理の状況に照らして、当該債権につき完全な弁済ができないと認められる場合又は当該債権の弁済に著しく日数を要すると認められる場合とする。

この第43条の2の2が分別管理を示していて、「管理の状況に照らして」と言うのが、議論のポイントの1つである。アーツ証券社長の川崎正が運営管理している複数の会社をまとめたスキームに対して(証券会社と運用会社の一体性でも記載リンク)、アーツ証券単体の信託銀行への振込をもって、管理の状況と照らして問題ないと解釈しているのが意味が分からない。「管理の状況に照らして」考えれば、複数の会社をまとめたスキームの外に分別されているのならば管理として理解できなくはない。しかし、金商法第42条の4でも「等」と書かれているように、スキーム内での資金移動だけに着目して「管理の状況に照らして」問題なしと解釈するのは明らかにおかしい。そもそも、分別管理の問題にする事自体がおかしいのである。

法律として言っている事は極めて当たり前の事なのだが、実際は証券会社の詐欺が起こるように実運用面では問題が出る。そのために、金融庁の監査が入ってチェックしているのだが、本件では二重帳簿を作っていたようで、金融庁のチェックもごまかされていた。これも分別管理以前の話であって、そもそも分別管理を持ち出すのがおかしい。

投資者保護基金

投資者保護基金は、証券会社の破たん等があった際に投資家を保護するためのセーフティーネットとして設立された機関である。日本だけでなくアメリカやイギリスにも存在し、一般投資家を守る事を目的としている。これは金商法の中でも明記されており、金融商品取引法第79条の21の条文(e-gov法令検索へのリンク)にて設立の目的が下記のように記載されている。

投資者保護基金は、第七十九条の五十六第一項の規定による一般顧客に対する支払その他の業務を行うことにより投資者の保護を図り、もつて証券取引又は商品関連市場デリバティブ取引に対する信頼性を維持することを目的とする。(金商法 第79条の21)

基金は、金商法で定められている唯一の投資家を守る機関であり、全ての証券会社は加入が義務付けられている。これは、証券会社が倒産した場合に備えてのもので、例え証券会社の資産がなくなったり債務超過に陥っても、投資家の資産を流用されるべきではないのだが、実際に投資家のお金を動かすのは証券会社であるから、投資家の資産がなくなる事はあり得る。(2000年に起きた南証券では証券会社の社長が投資家のお金を自分のお金として使ってしまっていた)

こういったケースがあり得るため、投資家の資産を保全すべく基金は上限を設けて補償する事が金商法で定められている。(1000万円まで)

例えば、トヨタ自動車の株券を証券会社AにてX氏が購入し、その後に証券会社Aが破産した場合、X氏のトヨタ自動車の株はあくまでもX氏の資産であるため、X氏にきちんと戻ってくるべきである。しかし、証券会社が預かっているX氏の株を勝手に売却して他の会社の返済に充てられる事もあり得る。こういった事が起きた時に、X氏の損害を補償すべく設立されたのが投資者保護基金である。

ここで重要になってくるのが、「分別管理」と言うもので、証券会社には投資家のお金を悪用したり流用したりできないように、お金を別に管理しなさいと言う義務がある。理論的には分別管理で信託会社等にお金を移しておきさえすれば、証券会社は投資家の資金の流用が出来ないはずで、これがされていない場合は基金が投資家にお金を補償します、と言うものである。

今回の事件では、アーツ証券は信託会社に投資家の資金を一度預けている。これをもって「分別管理」をされたとして、基金は補償をしないとしている。しかし、これは確実におかしく、分別管理の先に送られた投資家の資金が証券会社による詐欺スキームによって流用されているのが刑事事件の証拠から明らかにも関わらず、投資家のセーフティーネットとしての機能を拒否しているのである。

2000年に起きた南証券の詐欺の裁判においては、最高裁判決として下記が出ている。

「投資者保護基金は、会員である金融商品取引業者が顧客資産の返還に係る債務の円滑な履行をすることが困難であるとの認定をした場合に、認定金融商品取引業者の一般顧客の請求に基づいて、一般顧客が認定金融商品取引業者に対して有する顧客資産に係る債権であって認定金融商品取引業者による円滑な弁済が困難であると認められるものにつき一定の金額を支払う等の業務を行うことにより投資者の保護を図り、もって証券取引に対する信頼性を維持することを目的として謝けられたものである (最高裁判所平成18年7月13日 第一小法廷判決 。民集 60巻 6号 2336頁参照)。」

これから見ても分かるように、「分別管理」についての記載はなく、一般顧客の請求に基づいて円滑に顧客資産を返還するように示されているのみである。

また、投資者保護基金の制度設計として、分別管理が成されていれば基本的には資産を投資者保護基金が回収できるため基金に損害を与えずに顧客資産を返還できる、と言う考え方は理解できなくてはない。しかし、今回のような証券会社社長による詐欺スキームでは、スキーム外に分別管理しなければ意味は無いのである。

そう言った管理の意味合いを無視して、証券会社単独の「分別管理」がされているかいないかを理由にして補償の是非の議論を裁判でしている基金の考え方は理解に苦しむ。

なお、投資者保護基金制度については、海外の事例も含めた研究会が公益財団法人 日本証券経済研究所にて行われている。下記は、当該制度の内容である。

日本証券経済研究所による投資者保護基金制度の会合

投資者保護基金に関する命令

投資者保護基金とは、証券取引のセーフティーネットとして位置づけられた組織であり、法令でも定められた組織である。

投資者保護基金に関する命令(大蔵省令第百二十五号)

最高裁の判決でも下記のように、投資家の保護を図り証券取引に対する信頼性を維持する事を目的として設けられたものである、との記載があり、アーツ証券のような証券会社の詐欺被害者となった投資家こそ救済すべき組織である。

「投資者保護基金は、会員である金融商品取引業者が顧客資産の返還に係る債務の円滑な履行をすることが困難であるとの認定をした場合に、認定金融商品取引業者の一般顧客の請求に基づいて、一般顧客が認定金融商品取引業者に対して有する顧客資産に係る債権であって認定金融商品取引業者による円滑な弁済が困難であると認められるものにつき一定の金額を支払う等の業務を行うことにより投資者の保護を図り、もって証券取引に対する信頼性を維持することを目的として謝けられたものである (最高裁判所平成18年7月13日 第一小法廷判決 。民集 60巻 6号 2336頁参照)。」

残念ながら、今回、投資者保護基金はこの省令を無視し、被害者の救済を拒絶した。

拒絶の理由はまったく理解に苦しむもので、分別保管をアーツ証券がしているから(これも信託銀行に送金したに過ぎず、裏でアーツ証券社長の川崎正、児泉一、横山公一らが不当に資金を流用していた)と述べており証券会社からの資金送金の部分のみに着目して救済を拒絶している。証券取引の信頼性を維持しようと言う意志はまったく感じられなく、2022年7月の東京高裁の判決を基にすると、証券会社が破綻した場合、どのような場合においても救済はされなくなる事になる。

南証券の詐欺の判例

アーツ証券と同様の証券会社の詐欺が2000年に南証券にて起きた。

その際は、最高裁まで争われて、最終的には被害者の訴えが認められて投資者保護基金に支払い命令が出されている。

南証券における投資者保護基金への判決の判例

裁判所のHPにも判例として上記と同様のものが判例として掲載されている。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/751/034751_hanrei.pdf