地裁判決とその不当さ
1.争点について
地裁の判決は、そもそも争点からしておかしい。
1-1. 分別管理義務違反の争点
地裁は判決文のP.18 4 争点(1)において下記のように記載している。
アーツ証券の原告らの資産に係る分別管理義務違反が認められるか
「分別管理」については、別の記事で書いているが、そもそも証券会社による詐欺スキーム外への分別管理でないと意味がない。
したがって、地裁が争点としている(あるいは投資者保護基金が補償の是非の判断の基礎としている)分別管理義務違反は補償の是非にかかわらない。争点として、「分別管理義務違反が証券会社にあるか認められるか」を前提としてはいけなくて、「証券会社単独の分別管理で補償の是非を判断していいかどうか」が争点であるはずである。
1-2. 投資者保護基金による補償の公告の争点
次に、判決文のP.18 4 争点(2)に着目する。
金商法79条の54に係る認定及び同法79条の55にかかる公告を欠く場合において、被告に対し補償対象債権に係る給付を請求する事が出来るか
「公告を欠く場合において」とされているが、公告を欠いているから裁判に訴えているのであって、これをいきなり是として認定して前提にしてはいけない。正しくは「公告を欠いているが、それでよいのか?公告すべきではないのか?」が争点である。
上述のように地裁の判決文には争点が2つ書かれているが、争点の前提が両方ともおかしい。課題の定義が正しく出来ていないのである。これが、判決の内容を訳の分からない方向に進ませる要因の1つで、何を言ってるのかが全く伝わらない。最高裁にお願いしたいのは、課題を正しく定義してきちんとした議論をして頂きたい。地裁の判決は、議論の最初からおかしい。
2.投資者保護基金の主張
地裁の判決の中のP.26の(被告の主張)にて投資者保護基金制度の趣旨が書かれている。
分別管理制度とは、顧客から預託を受けた有価証券や金銭などの顧客資産の確実な返還を確保するため、金融取引業者に対し、顧客資産を金融商品取引業者の一般資産と区別して保管する事を義務付けることで、金融商品取引業者が登録取消処分、破産、解散等により金融商品取引業を行わなくなった場合に、顧客資産の確実な返還を実現するために設けられたものである。したがって、分別管理義務が履行されていれば顧客資産の返還は実現され、投資者保護基金による補償の必要性はない。
そして、投資者保護基金制度は、分別管理制度を補完する制度として金融商品取引業者による顧客分別金必要額の差し替えが週1回であるために、差替時と金融商品取引業者の破たん時の時間差により信託投資財産の元本の評価額が顧客分別金必要額に満たない場合及び金融商品取引業者の資産を換金して返済義務を履行する場合には….これを補償するものである。それゆえ、金融商品取引業者による顧客に対する説明義務違反又は顧客と締結した契約にかかる債務不履行等によって顧客が被った損害又は損失を補償する制度ではない。
まず、これは制度設計として書かれている話で、法的裏付けはない事を指摘する。
同時に、金商法で定められている下記の設立の目的とも矛盾する。
金融商品取引法第79条の21の条文(e-gov法令検索へのリンク)にて設立の目的が下記のように記載されている。
投資者保護基金は、第七十九条の五十六第一項の規定による一般顧客に対する支払その他の業務を行うことにより投資者の保護を図り、もつて証券取引又は商品関連市場デリバティブ取引に対する信頼性を維持することを目的とする。(金商法 第79条の21)
また、投資者保護基金の存在意義は最高裁判決で明記されており、以下のようなものである。
投資者保護基金は、会員である金融商品取引業者が顧客資産の返還に係る債務の円滑な履行をすることが困難であるとの認定をした場合に、認定金融商品取引業者の一般顧客の請求に基づいて、一般顧客が認定金融商品取引業者に対して有する顧客資産に係る債権であって認定金融商品取引業者による円滑な弁済が困難であると認められるものにつき一定の金額を支払う等の業務を行うことにより投資者の保護を図り、もって証券取引に対する信頼性を維持することを目的として設けられたものである (最高裁判所平成18年7月13日 第一小法廷判決 。民集 60巻 6号 2336頁参照)。(最高裁判例参考リンク)
基金は、金商法の設立の目的も最高裁の判決も無視して「説明義務違反又は顧客と締結した契約にかかる債務不履行等によって顧客が被った損害又は損失を補償する制度ではない」と宣言している。金商法上、どこにも「証券会社の説明義務違反や締結した契約による不履行による損失を補償する制度ではない」とは書かれていない。
だいたい、原告団は契約不履行による損失を補填してほしいなどとは一言も言っていない。明らかな証券会社の詐欺は補償すべきと言っているだけである。説明不足と言うレベルでは無くて虚偽なのである。これを説明義務違反と矮小化されるのは心外である。刑事事件で証券会社の社長の有罪が確定したのは詐欺罪であって、説明義務違反と言うレベルではない。
こういう所は、裁判所があえて矮小化しているように見えて、裏で何かもらってるのではないかと思えてしまうレベルで日本の司法に対する不信感が強まる内容である。こんな恥ずかしい判決を出して良いのかを、本気で日本国民に問いたい。
他にも、「業者による顧客分別金必要額の差し替えが週1回であるために、差替時と金融商品取引業者の破たん時の時間差により信託投資財産の元本の評価額が顧客分別金必要額に満たない場合及び金融商品取引業者の資産を換金して返済義務を履行する場合には….これを補償するものである。」と言って、基金の補償対象を法的裏付けもなく勝手に狭めている。わずかな時差の補償のみを対象とするだけで、証券取引に対する信頼性を維持する事を目的にできる訳がない。
もしも、この時差のみが補償対象とするならば、南証券の詐欺における最高裁判決は一体どう説明するつもりであろうか。
3.地方裁判所の判断
3-1.診療報酬債券を単なる金銭債権としている事について
東京地裁の判決文のP.31からP.32にて地方裁判所の判断として下記の記載がある。
本資金移動の法的効果が原告らに帰属しないと言うことはできず、理由としては、キャッシュフローの仕組みは、診療報酬債権等を証券化するするための仕組みとして想定されているものにすぎず、本件レセプト債に表章されているのは上記診療報酬債権ではなく、飽くまで、社債権者の本件レセプト債発行会社に対する金銭債権にすぎない。
この「レセプト債発行会社の金銭債権にすぎない」と断定するのが極めて乱暴である。
診療報酬債を流動化して組成していたオプティファクター社長の児泉一のヒアリングを読むと一目瞭然だが、単なる金銭債権では明らかにない。
地裁も高裁も、金融商品と金銭債権の違いが理解できてないのではないかと思われる。。。そんなレベルで判決をテキトウに出してほしくない。
他にも新宿総合会計のヒアリングのP.2にも投資家への情報開示はしていなくブラックボックスだった旨の記載がある。
これだけでなく、投資家に対して虚偽の説明をしていることは刑事事件でもあちこちに提示されているにも関わらず、地裁は何故にただの金銭債権に過ぎないと言い切っているのであろうか?
かなり忖度して想像するに、単なる社債である旨の契約書のようなものが存在するのかもしれないが、被害者にその契約書が提示されていなければ意味がない。
契約書に被害者のサイン等があるのだろうか?そのような証拠があるならば、裁判所はそれを明示しないとならない。判決文には明示されていなく、少なくとも私はそのような契約はしていなく、そこにサインをしたり印を押したりしてない。
なお、投資家にアーツ証券から提示された資料の画像を下に添付する。明らかにアーツ証券から出ているもので、裁判所はこれをどうやって金銭債権と解釈したのだろうか?ここにある内容は明らかに刑事事件で発覚した現実と違うではないか。そもそも証拠を見ているのだろうか?裁判が杜撰と言わざるを得ないし、大きな疑問がある。
また、本件の裁判中に、裁判所として契約書が提示されていたかどうかは誰かに確認したのであろうか?そのような議論があったとは聞いていないし、地裁で証人喚問もされていない。イイカゲンな契約書を証拠としてあげられても有効な証拠として採用できないのは明らかである。(なお、判決文に記載された証拠の「甲33、34」を刑事事件の証拠で確認したが破産手続開始申立書とその連絡であり契約書ではなかった。ここで裁判所が示しているのは、「資産の流動化を前提とした金融商品である」と言う事に過ぎなく、それは正しい。)
もしも単なる社債であるならば、アーツ証券社長の川崎正もオプティファクター社長の児泉一も刑事事件で有罪になって服役する事になってはいけない事になる。この2名が問われた罪は金商法違反と詐欺の罪である。単なる社債であれば、金商法違反でもないし詐欺でもない。この民事事件の地裁判決の判断根拠は刑事事件の結審結果と完全に矛盾する。
だいたい、常識的に考えて、何だか分からないケイマン諸島にある使途目的がないような債券に誰がお金を貸すのか?しかも3%の超低利で?そんな投資家は世の中に存在しない。
そんなものが2000人以上騙して227億円もの被害を出せると裁判官は思うんだろうか?しかも被害者の中には他の証券会社も数社含まれており、ここでも契約時に書面は見せられたはずなのである。その他の被害者の中にも金融のプロであるファイナンシャルプランナー等も少なくとも10名ほどはおり、全員が契約時に書面を見ている。単なる社債として顧客に提示してきていると考えるのは明らかにおかしい。
ちょっと考えれば、地裁が取り上げていると思われる契約書が顧客に提示されていないであろう事ぐらい予想がつきそうなものである。。。裁判官は何を考えているのだか本気で分からない。
また、ただの金銭債権だとしても、証券会社の説明義務違反は明らかであろうし(説明義務違反どころではない)、高裁判決においても説明義務違反を認めている。ますますもって、「本資金移動の法的効果が原告らに帰属しない」と言う結論になるだけである。(日本語レベルで判決文には矛盾がある。裁判官は1人や2人ではないはずで、どうしてこうなったんだろうか。。。)
証拠として採用していいかどうかも考慮せずに金銭債権にすぎないと断定して、虚偽の説明と言っている多くの証拠(刑事事件等)を無視しているのでは、裁判官の資質を疑わざるを得ない。刑事事件の判決を見ればアーツ証券から出された証拠など全て疑うべきである事案なのだから、例え契約書が存在したとしても、採用できない可能性が高いと思うべきである。裁判官として採用できない証拠は多々ある事ぐらいは経験上分かってるであろうし、そもそも証拠の信頼度を鑑みるのが裁判官の仕事である。でなければ、矛盾した証拠がある際に、どうやって判断するのか。
なお、下記に甲38号証の共和証券についての同債券販売においての証券取引監視委員会からの報告を添付する。これを見てもアーツ証券が他の販売証券会社への説明に際して金銭債権として説明していなく、診療報酬債として説明して販売していたのは明らかであろう。これは共和証券だけでなく、下記の証券会社全てに同様の説明をしていた事が分かる。他の証券会社も同様に甲第38号証に出ている。甲第38号証すべては添付しないが、代表として共和証券を参照されたい。
- おきなわ証券
- 六和証券
- 田原証券
- 竹松証券
- 上光証券
こういった事実を鑑みれば、一般投資家が受けた説明も同様であり(アーツ証券から購入した被害者は通常はファイナンシャルプランナーを通しており、筆者も共和証券と同様の説明を受けている)、単なる金銭債権などと言えないはずであるが、なぜにこう言った事実を全て無視して地裁は金銭債権としたのか?また、高裁までそれを認めてしまったのは残念を超え、日本の司法に対する憤りを覚える。
地裁の判決の中のP.32から35のアからカは我々原告団の弁護士の主張の5つを採用できない理由が並べている。結局は単なる金銭債権としてしまったが故の説明であり、金銭債権でないならばどれもこれも採用できない理由になっていなく、論理的ではない。
この辺りは、裁判官が意図的に枝葉末節な部分に着目して、原告の主張を退けたいと言う意図を非常に強く感じる部分である。上述でも色々と書いたが、まったくもって、公平な判決に見えないのはなぜなのか?
裁判長の清野正彦氏、裁判官の菊地拓也氏、小川勝己氏には、原告として説明を求めたい。
3-2.分別管理の解釈について
他でも再三書いているが、分別管理は当事案において証券会社だけに着目しては「管理」の意味がない。地裁判決文のP.45~46にて下記の記述がある。
金商法の定める分別管理業務に係る規定は、金融取引業者等が、その顧客から預託を受けた有価証券や金銭等の顧客資産を、事故の固有財産と区別して管理する事を内容とするものであって…このような規定の趣旨及び立法の経緯に照らしても、金融商品取引業者が所定の方法による分別管理義務を遵守していた場合に、補償対象債権の支払いを行う事は出来ないと言う解釈の相当性が裏付けられると言うべきであり…原告らの解釈は採用する事ができないものと解される。
規定の趣旨も分別管理の趣旨も、金融機関固有の財産と顧客の財産の区別を徹底するようにと、当然の事を言っている。事案の背景や関係者の意思決定や実際の行動は全て刑事事件の証拠に出ているが、財産の区別が徹底されているとは到底言えない。
表面的な証券会社の信託銀行への資金移動のみを見て、オプティファクターやSPC等の金融取引業者等を無視している。金融商品取引業者等と書かれているのだから(複数としてもいいはずである)、証券会社のみに限定して着目するのは不当である。規定や分別管理の趣旨を無視しているのは投資者保護基金と裁判官である。
趣旨を考えれば補償できると原告団は考えている。地裁判決は趣旨を考えた上で補償対象外としてしまっており、訳が分からない。アーツ証券等の証拠を見れば、財産の管理をされていない事は明らかである。裁判官と言うのは、記載が微妙な部分については、立法の趣旨を鑑みて判断すべきであると思っているが、判断があまりにもおかしく、「解釈の相当性は裏付けられない」。
3-3.リスクの説明について
地裁の判決のP.48に以下のようにある。
本件レセプト債発行会社の経営破たんにより、本件レセプト債の償還や利金の支払が不能になるリスクについては、債券投資に内在するリスクとして、本件レセプト債の取得の勧誘時において原告らに説明されていたのであり(前提事実(3))、投資者保護基金制度による補償の対象とされない事が直ちに不当とされるべきものでもない。
地裁判決 P.48
筆者はレセプト債発行会社の経営破たんの場合、どうなるかは当時の営業担当者に確認した事がある。その際の説明は、病院の経営権が渡されるとの話であった。しかし、裏付けのない診療報酬債では、そんなものはない。判決文には「前提事実」と書かれているが、まったく事実ではない。
また、「投資者保護基金による補償の対象とされない事が直ちに不当とされるべきものでもない」との判決文の意味も不明である。原告団としては、直ちに不当とは言わないがきちんと議論すれば法的にも不当と言えるのである、と言うのがそもそもの訴えである。地裁の主張は、原告の主張を拒否する理由には当たらないが、「主張は採用できない」として突然拒否している。採用できる可能性をいきなり捨てていて、実にヒドイ論理である。
そもそも、ここに書かれている内容も、上の方で単なる金銭債権の社債と言いつつ、診療報酬債が前提になっていて、何を言っているかも分からない。



